03
偶然かと訊ねられれば、否とこたえる。
少女ふたりの影を追う、どうにもおかしな連中にスタンレーが気づいたのは昼間だった。香水入れを渡したそのすぐ後、アルノたち背中を見送りながら、ふと違和感を覚えたのだ。
数人。町の人間とは思えない雰囲気の男たちが、ひとの流れに紛れながらふたりの様子を窺っている。男たちはスタンレーと同じく、あきらかによそものだった。
「シェルナの信者、だな」
ひとりにナイフを突きつけたまま、スタンレーは彼ら全員を見回した。月明かりに淡く照らされた男たちの、手の甲に彫り込まれた独特の文様。ひと目見てそれと分かるシェルナ教徒の証だった。
「異端扱いされてるトコの奴らが、教会に何の用だ?」
まさか改宗しに来たってわけじゃあないだろう。そう冗談めかして訊ねるスタンレーに答える者はいない。まあ答えるとも思ってはいないが。男たちの事情など彼にはさして関係がない。興味もないのでどうでもいい話だった。
「教会の犬か?」
「俺が? まさか。そんな信心者に見えるかよ、っと」
虚をつくように男を突き飛ばして、時間を与えないままスタンレーは銃を抜く。
「……、拳銃か!」
「へえ。よく知ってるな」
西ではだいぶ知られるようになった。どうでもいいことを考えながら撃鉄を起こし、流れるような速さで発砲する。ギィン、という耳に痛い金属音が銃声と重なるように響いた。
狙ったのは、目についた店の看板だ。
「なにを……」
「こんだけデカい音出せば、霊堂の見張りも気がつくだろうよ」
すぐそばに置かれていた木の箱に腰をおろす。戦う気など毛頭ないスタンレーだが、彼の手にはまだ銃が握られたままだ。それだけで牽制になることを彼は知っている。
「さっさと逃げた方がいいんじゃないか?」
わざとらしく首を傾げてやれば、舌打ちがひとつ返される。耳慣れないことばでいくらかやり取りをした後、男たちはスタンレーを置いて去っていった。人の声に彼らも気がついたのだろう。
「さて、ね」
弾を抜いて銃をしまいこんだ彼は、煙草を取り出して火をつけた。いたぞ、と野太い声が聞こえてくる。
「どうしたもんだか」
溜息と共に、紫煙を吐き出した。
独房から出されたのは正午ちかくだった。
「教会ってのはずいぶん物騒なとこなんだな」
「お前みたいな不審人物がいつやって来るか分からんからな」
口ひげを蓄えた男がじとりと睨むので、スタンレーは軽口をとめて、その代わりにといわんばかりに大げさに肩を竦めてみせた。
通された部屋には若い修道士がひとり、宿屋に置いていたスタンレーの荷物を持って立っていた。
「……わざわざどうも。確認しても?」
「ああ」
皮を繋ぎ合わせた袋を受け取ったスタンレーは、少し考えてからすべての荷物をテーブルの上に出してしまった。気分のいい話じゃないが、どうせ中身は見られているのだろう。ならば人の目を気にするのもばかばかしい。
若い方の男が目を丸くしているのを無視して――まあ真面目な修道士には見慣れないものもあるだろう――特になくなったものがないのを確かめる。財布の中身も減った様子はない。
「用心深いんだな」
「旅暮らしが長いとな。……そちらさんに預かってもらってるものも返してほしいんだが」
「そちらの話を聞かせてもらってからだ」
にっこりと微笑んだ男に、スタンレーもにやりと笑みを返す。
「用心深いんだな」
「歳をとるとどうしてもな」
袋のなかに広げたものを戻してから、ふたりと向かい合う形で椅子に腰掛ける。
「言っておくが、たたいても何も出てこねえと思うぞ」
「世の中には形式というものが必要なのだよ。教会ってところは特にそうだ」
面倒くさい、そう思わずにはいられない。目の前の男は、どう考えても狸ジジイだ。自然に眉も寄っていく。スタンレーとしてはさっさと町を出たいのだが。
「……煙草吸ってもいいか」
「あいにく灰皿はなくてな。申し訳ない」
絶対に、そう思ってなどいるまい。苦虫を噛み潰して背もたれにだらしなく身を預けたスタンレーの後ろで、声が上がった。
「あれ? スタンがなんでこんなとこにいるの?」
今度は修道士ふたりがそろって瞠目している。
「アルノ?」
「モーゼズさま、スタンとお知り合いだったんですか?」
振り返れば、野菜籠を脇に抱えた少女が、きょとんと首を傾げていた。